抜歯の歴史

 むし歯や歯周病で苦しむ人びとは昔からいた、という事実はこれまでのコラムでも触れてきました。人類がむし歯に悩まされるようになったのは、農耕生活を始めるようになった、約1万年くらい前からではないか、歯周病に至ってはさらに遡って、火を使い始めた200万年前くらいの骨からその痕跡が認められています。その歯や歯の病気との長い付き合いのなかで、今回は「歯を抜く=抜歯」に注目します。

 最初に想像がつくのは「歯があまりに痛いので抜いてほしい」ということから抜歯を請け負う歯医者が現れたのでは?というところでしょうか。古代ローマ時代、むし歯の原因は、宗教や呪術と密接な関係があると考えられていて「歯の悪魔」「歯の蟲(むし)」「体液」の過剰、などとされていたようです。

抜歯は理髪師が行っていました。指先が器用であることや、刃物などの道具の取り扱いに慣れていためと考えられます。中世に入ると理髪師のほか、大衆相手にはシャルラタン(大ほら吹き・ペテン師・大道具売り・にせ医者)またはクワックス(いかさま医者)と呼ばれる少し怪しい者たちが大道芸風に抜歯を行いました。当時はまだ麻酔がないので、素早く抜けることが重要でした。

一方で、世界に目を向けてみると、中国ではそれより前の紀元前5000年頃の人骨から抜歯の痕跡が発見されています。成人や婚姻など家族のきずなを固めるための風習であったと考えられています。この風習が日本やシベリア、ポリネシア、果てはアメリカ大陸まで伝わったと言われており、日本でも縄文・弥生時代の遺跡から、多くの抜歯痕が発掘されています。

 次回コラムでもう少し掘り下げてみたいと思っています。