歯科心身症
皆さんが実際に患者さんとして、歯科医院を訪れるときは、何らかの痛みを歯やその周辺に感じていて、それを和らげたり、治したりするために訪れることが多いと思います。
多くの場合、その原因はむし歯であったり、進行した歯周病であったり、口内炎やかみ合わせであったり、歯やその周辺にあります。
しかし、なかには、そこには原因が見つからず、
脳や心に原因があることもあります。
「心身症」はお口周りに限らず、そういった病気の総称で、なかでも歯やその周辺の歯科の領域に症状が出る場合を
「歯科心身症」と分類しています。
その領域である顔・顎・口と言った部位は、知覚神経が多く集まっています。
口唇や口の中の粘膜は触覚・痛覚に敏感で、舌には味覚も備わっています。
また歯の周りの神経も、髪の毛一本を識別できる敏感さです。
この優れた感覚に関連した心身症が「歯科心身症」の特徴です。
ある感覚が過敏になったり、感覚の錯誤が起きて、実際には患者さんご自身は確かに感じているのに、直接は口の内や外に関連する原因が見つからない状態となります。
その状況のなかで、歯や痛みの部分そのものにとらわれすぎてしまって、ほかの
原因に目を向けないと、取り返しのつかないこととなるので、慎重で柔軟な対応が必要です。
ご存じのとおり、歯の治療には、歯を削ったり、神経を取り去ったり、また歯そのものを抜いてしまうなど、行うと元に戻れない治療があります。
口のなかで失われたものは、人工物であとから補うこともできる訳ですが、授かった身体の一部を失なってしまっていることになるのです。
次回コラムで、具体的な歯科心身症の症例について、見ていきます。